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東京地方裁判所 平成7年(ワ)2728号 判決

原告

山本商会株式会社

右代表者代表取締役

山本浩文

右訴訟代理人弁護士

仁平信哉

被告

共同建設株式会社

右代表者代表取締役

梅田良雄

右訴訟代理人弁護士

圓山潔

主文

一  被告は、原告に対し、金一二九万六一〇一円及びこれに対する平成七年一月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金一二九万六二七一円及びこれに対する平成七年一月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、建築請負工事のために結成された二つの会社から成る共同企業体に対して建築資材を売り渡したとして、その構成員である一社が破産した後、他の構成員である被告に対し、商法五一一条一項に基づき、破産配当後の残代金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、建築資材の販売を目的とする会社であり、被告は、土木建築の請負等を目的とする会社である。

2  被告と増田建設株式会社(以下「増田建設」という。)は、平成五年三月九日、左記の建築請負工事(以下「本件工事」という。)を施工するについて、構成員は両会社、出資割合は増田建設が六〇パーセント、被告が四〇パーセント、代表者は増田建設とする増田・共同建設共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)を結成する旨合意した。

発注者 東京都

工事名 都営住宅〇四H―六八〇二西(多摩ニュータウン二一住区)工事

工事場所 八王子上柚木字九号九三六番

請負金額 八億六六二三万円(追加工事分一四四二万円)

3  本件共同企業体は、平成五年九月八日、本件工事現場に工事企業体作業所を開設して施工を開始したが、平成六年八月二四日、増田建設が破産宣告を受け、弁護士梶谷与平が破産管財人に選任された(当庁平成六年(フ)第二三九四号破産事件、以下「本件破産事件」という。)。

4  原告は、本件破産事件において、破産者増田建設に対する本訴債権を含む元金二三四万九三五五円の債権の届出をし、これに対して平成八年一二月一一日に二〇万三七四二円の配当を受けた。

二  原告の主張

1  原告は、平成六年二月二一日から同年八月二二日までの間に、本件共同企業体から本件工事に係る建築資材の発注を受け、別表記載のとおり、代金合計一四一万九一七五円(以下「本件代金」という。)相当の建築資材を本件共同企業体に売り渡した。

2  本件共同企業体は、民法上の組合であるが、いずれも土木建築の請負等を目的とする被告と増田建設の二社が本件工事を現実に施工することを目的として結成したものであり、本件工事に係る建築資材の購入は、その目的の遂行のため、本件共同企業体の名の下に、本件共同企業体に効果を帰属させる意思をもって、原告に対し発注し、納入を受けたものにほかならない。したがって、原告との間で右売買契約を締結する行為は本件共同企業体の商行為であり、これに基づく本件代金債務は商行為たる行為によって発生したものであるから、商法五一一条一項により、構成員である被告が連帯債務を負担したものというべきである(なお、組合債務が商行為によって生じたものであるときは、組合員の債務も連帯債務となることにつき、大審院明治三二年一一月一六日判決・民録五輯一〇巻六九頁、同明治四二年二月五日判決・民録一五輯二巻四六頁参照)。このような場合において、商法の右規定の適用を否定し、組合債務の債権者に対する各組合員の分割個人責任を定めた民法六七五条の適用を肯定することは、建設業における共同企業体(ジョイント・ベンチャー)が複数の単独企業の合同により経済的信用を増大して大規模な請負工事を施工するために考案された比較的新しい法技術であることからすれば、甚だ前近代的な結論というほかはないし、組合債務の第一次的な引当てとなる組合財産は乏しいのが一般的であることにかんがみると、取引の安全を害するから妥当ではない。

3  本件破産事件における原告の届出債権である元金二三四万九三五五円の内訳は、本件代金一四一万九一七五円と新倉マンション新築工事に係る建築資材の販売代金九三万〇一八〇円であるから、本件代金に対する破産配当額は、右の各販売代金額によって按分計算した一二万三〇七四円となる。

4  よって、原告は、被告に対し、前記1の本件代金から右3の配当金を控除した残額一二九万六二七一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1  原告がその主張のような建築資材を販売したとしても、増田建設が、本件共同企業体の代表者としての顕名をすることなく、自己独自の業務の執行として原告に発注し、納入を受けたものであって、右建築資材の買主は増田建設にほかならないから、被告が本件代金について支払義務を負ういわれはない。このことは、原告が、増田建設に対し、増田建設が当時独自に施工していた新倉マンション新築工事の現場に納入した建築資材の代金と本件共同企業体の本件工事現場に納入した建築資材の代金とが混在している同一の請求書で請求をしているほか、破産者増田建設に係る本件破産事件において、本件代金債権を新倉マンション新築工事の分と併せて債権の届出をした上、その配当を受領し、また、本件係争分以前においても増田建設から支払を受けていることからも明らかである。なお、被告の従業員が本件工事現場に出向していたことはあるが、同人が自己の判断だけで原告に発注したことはなく、物品受領書の同人の署名も、たまたま工事企業体作業所に同人しかいない時に原告から納入された際、その受領のため署名をしたものにすぎない。

2  原告が引用する大審院判決は、現行法の下においては不適切である。すなわち、旧商法(明治二三年四月二六日法律第三二号)は、共算商業組合として、現行商法と同様の匿名組合(二六八条)のほかに、二人以上共通の計算をもって一時の商取引又は作業をすることを目的とする「当座組合」(二六六条)と、二人以上各自別個に一時の商取引の作業をし又は商業を営みこれによって生ずる損益を共分することを目的とする「共分組合」(二六七条)とを規定し、当座組合及び共分組合にあっては、各組合員が第三者に対して直接に連帯の権利義務を有すると定めていたところ、原告引用の明治三二年判決の事案は、商業上の組合員(当座組合か共分組合かは明確ではない。)に対して借地契約に基づく賃料支払の連帯責任を認めたものである。しかし、現行法で認められている商法上の組合は、匿名組合のみであって、旧法時の当座組合及び共分組合なる概念は存在しないから、商人間で結成された組合であっても、すべて民法上の組合法理によって律せられるべきである。したがって、仮に、本件代金に係る建築資材の買主が本件共同企業体であるとしても、その代金債務について商法五一一条一項の適用はなく、民法六七五条によって処理されることになる。

四  本件の争点

1  本件代金に係る建築資材の買主は、本件共同企業体か、増田建設か。

2  本件代金について被告が連帯債務を負担するか。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件代金に係る建築資材の買主)について

1  被告と増田建設が本件工事を施工するについて両会社を構成員とする本件共同企業体を結成したこと、その出資割合は増田建設が六〇パーセント、被告が四〇パーセント、代表者は増田建設であることは前示のとおりであり、右事実と証拠(甲一の1、2、二の1ないし15、三の1ないし5、四の1ないし5、14、15、21、23ないし25、27、29、30、40、五の1ないし3、六の1ないし24、七の1、2、八の1ないし13、一一、一二、一三の1ないし5、一四、一六の1ないし9、一七ないし一九、二〇の1ないし28、乙四ないし一二、証人寺田晃、岡城靖史、小森康孝、市村文孝)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下のとおり認められる。

(一) 被告と増田建設は、いずれも土木建築の請負等を目的とする株式会社であるが、平成五年三月九日、東京都から発注を受けた本件工事の施工運営に関し、次のとおりの共同企業体協定書(以下「本件協定書」という。)を作成した。

ア 本件共同企業体の名称は「増田・共同建設共同企業体」、構成員は増田建設及び被告の二社とし、事務所は東京都千代田区飯田橋二丁目四番五号の増田建設内に置く。本件共同企業体は、右同日に成立し、本件工事の請負契約の履行後、構成員全員の同意を得た日に解散することができる。

イ 本件共同企業体の代表者を増田建設と定め、増田建設は、本件工事の施工運営に関し、本件共同企業体を代表して、発注者及び監督官庁等と折衝する権限並びに自己の名義をもって請負代金の請求・受領及び本件共同企業体に属する財産を管理する権限を有する。

ウ 本件共同企業体の構成員の出資割合は、増田建設六〇パーセント、被告四〇パーセントとし、代表者は、発注者から請負代金を受領の都度、これを右出資割合により速やかに各構成員に配分する。

エ 本件共同企業体は、本件工事を円滑に遂行するため運営委員会を設け、施工のため工事企業体作業所を設置する。

オ 本件共同企業体の会計期間は共同企業体成立の日から解散の日までとし、工事完成引渡後速やかに決算を行い、その結果利益を生じた場合には、出資割合により構成員に利益金を配当し、欠損金を生じた場合には、右出資割合により構成員が欠損金を負担する。

カ 各構成員は、本件工事の請負契約の履行に関し、共同連帯して信義に従い責任を負うものとし、共同企業体が解散した後においても、本件工事に瑕疵があったときは、連帯してその責任に任じ、その費用は出資割合により負担する。本件工事の施工により、発注者、工事従事者及び第三者に対して損害賠償義務が生じた場合も同様とする。

キ 構成員のうちいずれかが着工から解散までの間に破産した場合には、残存構成員において工事を完成し、破産した構成員の出資割合を取得する。

(二) 増田建設は、本件共同企業体を代表して、平成五年三月九日、東京都との間で、本件工事を、請負金額は八億六六二三万円、工期は平成七年二月一五日とする約定で請け負う旨の工事請負契約を締結し、東日本建設業保証株式会社との前払金保証契約に基づいて預託すべき前払金二億四〇〇〇万円については、出資割合により、増田建設が一億四四〇〇万円、被告が九六〇〇万円をそれぞれ負担した。

(三) 本件共同企業体は、平成五年九月八日、工事現場に工事企業体作業所を開設して、「増田・共同建設共同企業体」「増田・共同JV」などと表示された看板を設置するとともに、被告及び増田建設のそれぞれの商号・代表者氏名等を記載した建設業の許可票を掲出して本件工事に着工した。右作業所には増田建設の従業員である市村文孝(以下「市村」という。)が現場代理人ないし所長として常駐し、被告と増田建設の双方から部長を含む二、三人で構成される運営委員会の定めるところに従い、右現場における事務処理を統括し、被告の従業員である岡城靖史(以下「岡城」という。)が工事主任として市村を補佐し、岡城の下に増田建設の従業員の柳川、高山、指田らのほか、被告の従業員の山田が配置された。そして、被告は、増田建設とともに現実に本件工事の施工に当たった。

(四) 原告の多摩センターの営業担当従業員である寺田晃(以下「寺田」という。)は、同年九月ころ、本件工事の工事企業体作業所に数回赴いて建築資材の売込みを図り、岡城及び柳川の説明から本件共同企業体が本件工事の施工をしていることを知り、市村所長と直接面談して本件工事の建築資材を納入したい旨申し込み、その承諾を得た上、同年一〇月ころから本件共同企業体と右建築資材の売買取引を開始した。なお、同年一一月五日には、本件共同企業体と東京都との間で、本件工事につき代金一四四二万円の追加工事の請負契約が締結された。

(五) 原告に対する本件工事の建築資材の発注は、本件共同企業体の工事企業体作業所の市村所長の了解の下で、増田建設の従業員の柳川らのほか、被告の従業員の岡城も、随時、本件共同企業体のためにするものであることを示して電話等により行っていた。これに対して、原告の従業員の寺田らは、工事企業体作業所に目的商品と請求書を持参して納入し、その物品受領書には、納品先として「増田・共同JV」と記載し、受領印欄に本件共同企業体の担当者から署名を徴するのを例としていたが、その署名者の中には、増田建設の柳川らのほか、被告の岡城も含まれていた。

(六) 原告は、右のような方法により、平成六年二月二一日から同年八月二二日までの間に、本件工事に係る建築資材の発注を受け、別表記載のとおり、本件代金合計一四一万九一七五円相当の建築資材を売り渡した。

2  ところで、被告は、増田建設が、本件共同企業体の代表者としての顕名をすることなく、自己独自の業務の執行として原告に発注し、納入を受けたものであって、右建築資材の買主は増田建設にほかならない旨主張するので、この点について検討する。

(一) 確かに、証拠(甲一、三の各1、四の6ないし13、16ないし20、22、26、28、31ないし39、五、七、九の各1、証人寺田晃、小森康孝、市村文孝)及び弁論の全趣旨によれば、本件代金に係る原告作成名義の請求書の宛先には「増田建設(株)21―F(作)」と表示されて、増田建設に対して代金の請求がされ、本訴係争分以前の納入に係る建築資材の販売代金については増田がその支払をしていること、本件代金に係る原告の請求書のうち、平成六年六月二八日から同年七月二一日までの間に販売した商品の同年七月三一日付け請求書中には、当時、増田建設が本件現場と併行して別の現場で単独で施工していた新倉マンション新築工事分の建築資材として原告から納入を受けたものも混在していることが認められ、また、原告が、本件破産事件において、破産者増田建設に対する本訴債権を含む元金二三四万九三五五円の債権の届出をし、これに対して平成八年一二月一一日に二〇万三七四二円の配当を受けたことは前示のとおりである。

(二) しかしながら、他方、本件協定書において、本件共同企業体の構成員である増田建設及び被告の二社は、いずれも本件工事の請負契約の履行等に関して共同連帯責任を負い、出資割合により損益を処理するものとされ、被告からも本件共同企業体の事務処理のために従業員二名が現場に設置された工事企業体作業所に配置された上、そのうちの一名は、工事主任として、右現場における事務処理の統括者である所長を補佐する地位にあり、被告は増田建設とともに現実に本件工事の施工に当たっていたことは前記認定のとおりである。したがって、本件共同企業体が、表面上は共同企業体による共同施工の形態をとりつつ、実際は構成員間の取引で一部構成員のみが施工をし、他の構成員は施工に当たった会社から見込利益相当額を名義料的に受領するいわゆるペーパー・ジョイントに当たらないことは明らかである。

(三) そして、原告に対する本件工事の建築資材の発注は、本件共同企業体の工事企業体作業所の市村所長の了解の下で、増田建設の従業員の柳川らのほか、被告の従業員の岡城も、随時、本件共同企業体のためにするものであることを示して電話等により行っていたこと、原告の従業員の寺田らは、右作業所に目的商品と請求書を持参して納入しており、その物品受領書には、納品先として「増田・共同JV」と記載し、受領印欄に本件共同企業体の担当者の署名を徴するのを例としていたが、その中には、柳川らのほか、岡城が署名しているものもあることは前示のとおりである。被告は、岡城が、自己の判断だけで原告に発注したことはなく、物品受領書の同人の署名も、たまたま右作業所に同人しかいない時に原告から納入された際、その受領のための署名をしたにすぎない旨主張するが、右事実関係からすれば、岡城にも、本件共同企業体のためにするものであることを示して原告に発注し、納入を受ける権限が与えられていたと認めるのが相当である。

(四) また、原告の請求書中において新倉マンション新築工事の現場に納入した建築資材の分が混在した点について見ると、証拠(甲四の6ないし13、16ないし20、22、26、28、31ないし39、二一、二三の1ないし3、13ないし20、証人小森康孝、市村文孝、寺田晃)によれば、右請求書に対応する物品受領書には、納品先として「新倉マンション新築工事作業所」と明記され、本件工事現場と区分されていたこと、原告の多摩センターは、多摩地区、町田地区、八王子地区、相模原地区等で、いわゆる雑金物と称する細かな建築資材関係の販売を手広く営業し、寺田らが一日に二、三回取引先を巡回して納入したり、伝票処理をしたりしていたこと、増田建設は、原告に対し、両方の現場の納品分につき一括して自己振出の約束手形又は小切手等で代金を支払っていたこと、こうした事情から原告内部の事務処理手続上の過誤により前記のような請求書中における混在という事態が生じたことが認められ、最終的に右の混在分が本訴請求分から除外されていることは、本訴の経過に徴して明らかである。

(五) さらに、原告は、前記のとおり、破産者増田建設の本件破産事件において、本件代金債権につき新倉マンション新築工事の分と併せて債権の届出をした上、その配当を受領しており、また、本件係争分以前においても増田建設から支払を受けている。しかしながら、本件共同企業体の対外的な代表者は出資割合の多い増田建設とされ、増田建設が発注者及び監督官庁等と折衝する権限並びに自己の名義をもって請負代金の請求・受領及び本件共同企業体に属する財産を管理する権限を有するものとされていたことは前示のとおりであって、増田建設も、本件共同企業体の構成員として、本件代金につき連帯債務を負担していることは、後記二1に判示するとおりであるから、右の点もまた、被告の前記主張を裏付けるものとはいえない。

(六) そして、他に、被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

3  以上の認定及び判断からすれば、本件共同企業体は民法上の組合の性質を有するものというべきであり(もっとも、民法六七九条二号により組合員の破産が脱退事由とされ、いわゆる一人組合は同法上予定されていないから、構成員二社から成り、一社の破産の場合に残存他社による工事完成義務と出資割合の取得を定めている本件共同企業体は、その限りにおいては、組合の要素が減退しているといわざるを得ないが、前示事実関係の下においては、全体として右のとおり組合の性質を有すると判断することの妨げになるものではない。)、原告としては、このような本件共同企業体から発注を受け、これに対して本件代金に係る建築資材を売り渡したものと認めるのが相当である。

二  争点2(本件代金についての被告の連帯債務)について

1 前記認定事実に照らすと、本件共同企業体は、いずれも土木建築の請負等を目的とする株式会社である被告と増田建設が、東京都から発注を受けた本件工事(都営住宅の建築請負工事)の施工をすること、すなわち、商法五〇二条二号にいう「他人ノ為ニスル加工ニ関スル行為」を引き受ける行為を営業として行うことを目的とし、両会社をその構成員として結成したものであるから、商行為を営業として行うことを目的とする民法上の組合であり、その組合員がいずれも商人資格を有することは明らかである。そして、本件共同企業体が本件工事に係る建築資材を原告に発注して原告との間で売買契約を締結し、目的商品の納入を受ける行為は、右組合の営業のためにする附属的商行為にほかならない。一方、民法上の組合が組合事業の経営によって負担した組合債務については、各組合員が共同の債務者となって組合財産を引当てとする責任を負うとともに、これと並んで、各組合員個人も、組合債務と表裏の関係において、自己の財産を引当てとする債務を附従的に負担することになる。そうすると、商行為を営業として行うことを目的とする組合が商行為によって債務を負担し、各組合員も商人の資格を有する本件のような場合には、多数債務者の一人又は全員のために商行為たる行為によって債務を負担したものとして、商法五一一条一項の適用を肯定すべきであるから、被告及び増田建設は、各自、本件代金について連帯債務を負担したものというべきである。これを実質的に見ても、建設業における共同企業体は、多くの場合、大規模な建築請負工事を共同連帯して施工するため複数の単独企業により結成されるものであり、このような共同企業体から発注を受け、その工事現場に建築資材を納入する販売業者としては、特段の事情がない限り、個々の構成員よりは共同企業体としての経済的信用をより重視し、これを前提にして取引を行うのが通例であることからすれば、本件のような場合にまで、被告主張のように民法六七五条による各組合員個人の分割責任の原則を貫徹することは、組合財産の独立性が甚だ不徹底なことと相まって、取引の安全を害することになりかねない。したがって、被告の右主張は採用することができない。

2  原告が、本件破産事件において、破産者増田建設に対する本訴債権を含む元金二三四万九三五五円の債権の届出をし、これに対して平成八年一二月一一日に二〇万三七四二円の配当を受けたことは前示のとおりであり、証拠(甲二三の1ないし20)及び弁論の全趣旨によれば、右届出債権額の内訳は、本件代金一四一万九一七五円と新倉マンション新築工事に係る建築資材の販売代金九三万〇一八〇円であることが認められる。そうすると、本件代金に対する破産配当額は、原告主張のように、右の各販売代金額によって按分計算した一二万三〇七四円となるから、これを右代金額から控除した残額は一二九万六一〇一円となる(原告の本訴請求額は違算と認める。)。

第四  結論

よって、原告の本訴請求は、被告に対し、一二九万六一〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成七年一月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害賠金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官篠原勝美)

別紙〈省略〉

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